吾妻ひでおの壮絶「失踪日記」

大収穫をこころに刻み、京都から帰ると、アマゾンで購入した
吾妻ひでお失踪日記」が到着していた。
朝日の書評で読んで、即注文したやつだ。


吾妻ひでおというと、黄金時代の少年チャンピオン、だろうか。
ただ、売れっ子作家時代、の吾妻ひでおには、僕はあまり縁はない。
むしろ、ヘンだけど何だかすごい、という作品を、
何だかよくわからない雑誌とかにちょこちょこ載せていた、
ポップでシュールなマニアックな漫画家のイメージがむしろ濃い。
ファンの評価に比べて、マーケット的には、不遇の作家だと思う。
ロリータもの、のイメージもちょいとあったし…。
というわけで、熱心な読者というわけではないし、
単行本とかも、過去に数冊買ったことがあるだけ。
失踪したらしい、というニュースは聞いていたけど、
別にその後どうしたんだろう、と気にかけてたわけでもなかった。


しかし、失踪時代の実録もの、と聞いては買わずにはいられない。
僕が口にするのもおこがましいが、
〝あの〟吾妻ひでおの実録「失踪日記」を読み逃すわけにはいかないのだ。
絵は、往年のポップな感じそのまま。
著者自身、「極力リアルさを排除した」と書き記してある通り、
かなりやばい状況も、いい感じに脱力して描いている。
だから、よくある〝こんなに悲惨だった〟自慢の実録漫画とは全然違う。
そう、切れ味抜群のシュールさで、こちらの脳細胞に迫ってくる。


もちろん、ギャグの切れは申し分ない。
きっちりとエンタテイメントに仕上げている。
天ぷらの廃油や、〝野生の〟ダイコンで飢えをしのぎ(いや、ド×ボ×だけど…)、
凍死寸前の〝関節の筋肉が収縮して、メキメキ、バリバリ音を立てる〟。
悲惨きわまりない状況を、笑いに転化させている。
もちろん、当時はとてもじゃないが笑えなかっただろうけど、
作品世界に持ち込む際のフィルターのさじ加減は、やはり〝さすが〟だ。


ホームレス(この言葉はあまり好きではないんだが…)編と、
ガス工事の下請け編、アル中編と、よくわからない迷走ぶりも、
かつて不条理マンガの旗手として活躍した吾妻ひでおならでは?
肉体労働していると、芸術したくなり、
ガス会社の社内報にマンガを投稿(寄稿、じゃなく…)しちゃったり、
ミジメに感じてしまうツボが、何ともいえず微妙だったり…


まあ、そんなところも笑えるところが、この作品の魅力ではある。
ガス工事編はともかく、ホームレス編とアル中編は
実際の状況を考えると、シャレではすまないのはよく理解できる。
でも、ここは著者の意志を尊重して、素直に笑っちゃうのがベストかと。
別に、僕自身が迷惑こうむったわけでもないんで、
目をつり上げて、どうこう言うべきでもないと思うし。
で、結論。万人向けとはいわないが、
吾妻ひでお、という名前に少しでもピンとくる人名なら、間違いなく必読の書。
かつての名作の数々も、ぜひに再訪してみたいものだ。