梅田ブルク7で「ビヨンドtheシー 〜夢見るように歌えば〜」

mike-cat2005-02-28



サブタイトルよぶん、じゃない? まあ、いいけど。
才人ケヴィン・スペイシーが製作、監督に共同脚本、主演をこなした。
まさに入魂の一作だ。これは見なきゃ、と駆けつけた次第。
ジョン・グッドマンボブ・ホスキンス、ブレンダ・ブレッシンと共演陣も豪華だし、
「ブルー・クラッシュ」ケイト・ボスワースがヒロインのサンドラ・ディーとくれば、
必見という感じでしょ、やっぱり。と思いながら、映画館にたどり着く。
しかし、だった。むむむ、とうならざるを得ない映画だった。
もちろん、ある程度の水準には達しているし、
違う世代の人は、まったく違う感想を持つのかもしれないので、断言はしない。


そう、まずはこの点だ。
僕はボビー・ダーリンを知らない世代、なのだ。
だから、知ってる曲はあっても、
「ああ、懐かしのボビー♪」みたいな部分がまったくない。
だから、当時を知る人が懐かしみ、涙しちゃうようなシーンを、
そのまますらすらと見逃してる可能性があるのだ。
そういえば、劇場には年配の方が目立った、というか、
若い(いや、そこまで若くはないですが…)観客は僕だけ。
あとはみんな、60代前後っぽかった。
この人たちには、全然違うものに見えるのかな、と。


そういう人物でも映画の出来次第では、
十分感情移入できるはずなんだが、これがまた微妙…
ボビー・ダーリンが自ら主演する伝記映画の製作シーンから始まり、
幼少時代のダーリンが出てきて、現実と虚構が入り交じる、
ちょっとゴチャゴチャしたストーリーが、気持ちの盛り上がりを阻害する。


伝記映画がらみのシークエンスで、
記者から〝あなた(ダーリン自身)が、
主人公を演じるのには、年齢的に無理はないか〟と聞かれるシーンがあるのだが、
ここがもう、37歳で逝ったダーリンを、
老け顔のスペイシーが演じることの言い訳になってたりして、
これもまたムードが壊れる原因になってたりする。


また、物語のメッセージも、散漫な印象が強い。
幼少時の病気で長生きできない、と言われていたたダーリンの、
その時、その時にすべてを懸ける生き様が描きたいのか、
その関連で、ダーリンが人生を常に演じるように生きてきた、
というプロフェッショナルな歌手としての部分が描きたかったのか、
それとも、複雑な家族のきずなの中で生きた、
ダーリンのパーソナルな部分を描きたかったのか…
もちろん、どれも大事なんだが、その絞り込みがあまりに甘くて、
観ている方としては、ダーリンに感情移入できないのだ。


それと、スペイシーの歌、なのだ。
もちろん、映画製作に懸ける意気込み、なんだろうけど、
歌うシーンはいっさい吹き替えなし。自分で歌ってる。
確かにうまい。うまいんだけど、やっぱりオーラがない。
俳優が歌ってる、という意味では、十分評価はできるが、
観ていて、ジーンとくるほどのレベルには達してない。
上手だね、と思うだけ。
ユアン・マクレガー主演で話題になった「リトル・ヴォイス」で、
ジュディ・ガーランドの再来か! と思わせたジェーン・ホロックスの歌ならまだしも、
このレベルだと、ケヴィン・スペイシーの評価こそ上がるが、
映画そのものの出来から考えると苦しいんじゃないかと思う。
いっそ「Ray」のジェイミー・フォックスみたいに、
レイ・チャールズの歌でいくべきトコロは、そのまま、というのが正解だと思う。


こうして考えるとこの映画、
ケヴィン・スペイシーがやりたいコトをとことん追求した映画なんだな、と。
ケヴィンがこう歌いたい、ケヴィンがこう踊りたい、ケヴィンがこう演じたい…
いや、プロデューサーなんだから、好き放題してもいいんだが、
それにしても、とてもケヴィン・スペイシーの〝個人的な映画〟過ぎる。
観ていて、「ああ、歌って、踊ってみたかったんだなぁ」というのが、
伝わりすぎるくらい、伝わってくるのだ。
しかし、なのだ。
スペイシーが力を入れれば入れるほど、その分ドラマの感動は伝わってこない。
独り善がり、という言葉は使いたくないが、
ケヴィン・スペイシーの夢を、金を払って見せられている感じ。
演技の水準も、十分なレベルになっているのに、
そんな押し付けっぽさばかりが、強く感じられてしまった。


映画の時間は118分。だけど、ものすごく長く感じた。
かなりの疲労を感じながら、劇場を後にした。
期待が大きすぎたんだろうか。いや、それにしても…
感想はどちらかというと、「映画の何がいけなかったのか」だけ。
同じく伝記ベースの映画でも、
「Ray」のように、偉大な人生に触れた、という感じもない。
エンタテイナーとしては、ボビー・ダーリンの格に不足はない。
思い入れのありすぎる題材は、
ケヴィン・スペイシーにすら凡作を作らせるのか…。
ホント、難しいモンだな、と複雑な想いがよぎったのだった。