アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇 (創元推理文庫)」

mike-cat2007-06-04



〝ドイツ・ミステリ大賞受賞シリーズ〟
なかなか目にすることのない、ドイツ発のミステリが登場。
〝馬殺し、放火、そして冷蔵庫に吊り下げられた男の死体〟
ドイツの寒村に〝カルーソー〟が引き起こした悲劇を描く。
〝事件の悲しすぎる真相とは〟
独特の風合いに満ちた描写が印象深い1冊だ。


5年前、稼ぎのいいフランクフルトの広告代理店の職を辞し、
<神にも見はなされた寒村>クライン・ローダに移り住んだパウル・ブレーマー。
ろくな事件もないはずの田舎で、次々と起こる馬殺しと放火事件。
そんな折、パウルが思いを寄せる女農場主アンネの夫が殺され、
食肉用の冷蔵室のフックに吊り下げられているのが発見された。
移民か、それとも?。迷走する疑惑。
人にいえない過去を抱えるアンネに、パウルの親友で女検事のカレン、
地元の刑事コジンスキーにパウル…。各々の思いを交錯させ、謎は深まっていく―


ドイツの寒村、という舞台設定がなかなか面白い。
何しろ、神にさえ見はなされた寒村、である。
ひと癖も二癖もある隣人たちと、本来アウトサイダーパウルの関係もさることながら、
あらゆる厄災を、都会と移民、すべてのよそ者たちのせいにする田舎の住民が、
<われわれのだれか>に疑惑を向けざるを得なくなった、苦しい状況など、
その舞台設定を存分に生かしたさまざまな感情描写が、この作品を読ませる1冊に仕上げている。


物語の視点は、語り部たるパウルだけでなく、
その過去が事件の大きなカギとなる農場主アンネや、
パウルの親友として物語に絶妙のスパイスを加える女検事のカレン、
地味ながら味わい深いキャラクターとして登場するコジンスキーと、
次々に変わっていくことで、物語には深みと奥行きが加わっていく。
シリーズ第1作ということで、本筋とは微妙にズレるキャラクター紹介も多いが、
それはそれで魅力にあふれる登場人物ばかりなので、そう気にならない。


事件そのもののネタについては、まあ悪くない、といったところか。
想像もつかないような突飛さもないが、かといって読んでいて退屈ということもない。
ただ、読み終えてザッと振り返ると、
ややふに落ちないような部分も残るのは、読み手の力不足もあるのだろう。
シリーズとしては、これから面白くなりそうな気配も感じるが、
この1冊だけで評価するなら、あくまでまあまあの域は出ない感じだ。
次回作は読むべきか、それとも―
まあ、刊行予告が出るまでは、考えても仕方がないので結論は保留なのである。



Amazon.co.jpカルーソーという悲劇


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カルーソーという悲劇
アンネ・シャプレ著 / 平井 吉夫訳
東京創元社 (2007.5)
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淀川土手は城北公園の城北菖蒲園


そういえばそろそろ花菖蒲、と思っていた矢先、
城北公園の花菖蒲園で、見ごろとの情報を見かける。
菖蒲といえば東京・葛飾堀切菖蒲園くらいしか知らなかった(無知)が、
どうもこちらで城北菖蒲園といえば、なかなか有名なスポットらしい。
いそいそと天満橋から110系統「守口車庫行」バスで「城北公園前」へ向かう。


1964年、淀川土手に開園されたというこの菖蒲園は、
江戸系、伊勢系、肥後系などの250種1万3000株が咲き誇るという名所。
というか、江戸系だの何だのも知ったのだが、江戸時代からの流れになるらしい。
ちなみに江戸系は群生美、肥後系は雄大な花を楽しむ六英咲き、
伊勢系はやや小ぶりな三英咲きが特長だということらしい。なかなか難しい。


園内に入ると、いきなり目に入るのは、一面に咲き誇る花菖蒲の風景。

なるほど、これはすごい。
これまで花菖蒲には縁がなかったのだが、根強い人気の秘密がよくわかる。
すこし早めの紫陽花なんかも咲いていて、ちょっと得した気分も味わえる。

どれもこれもが鮮やかで、甲乙つけがたいのだが、いくつかご紹介。

まずは江戸系でやや薄紅がかった紫が美しい「猿踊」

「紫衣の誉れ」は、濃い紫が妖艶な風合いを醸し出す。

「滋賀の浦波」は、6枚の花弁と色のバランスが見事な逸品。

「日の出鶴」もピンクがかった色合いが目に麗しいのである。


肥後系はダイナマイト・ボディ(不穏当…)の花ばかりだ。

「白鳥」は文字通り、翼を広げた白鳥のような印象。

「辻が花」はピンクのフリルをあしらったような大輪で迫る。

「紅唇」は花弁の垂れ具合と紫の縁取りが絶妙のマリアージュになっている。


もともとやや少なめの伊勢系は、
やや見ごろを過ぎ気味なこともあって、写真は1枚だけ。

しかし、この「伊勢千歳」は、マイベスト候補の見事な咲きっぷりだ。


また、長井古種という、より原生種に近いものも。
花菖蒲にはなぜか力士を思わせる名前が多いのだが、

この「出羽の里」もそのひとつで、花芯の鮮やかさがたまらない。

「小桜姫」も3枚の花弁のグラデーションが美しい品種である。
雑種系、という身もふたもない名前の系統もある。

だが、この「金鶏」の見事さを目にすれば、そんな名前など関係なくなる。


そんな怒濤の勢いで迫る花菖蒲に、ただひたすら圧倒され、

ちょいと横を眺めると、そこには「ほざき七竈」が咲いていたりして、これまた一興。
まだまだ花が残っているツツジなどとともに、目を楽しませてくれたのだった。