門倉貴史「世界の下半身経済が儲かる理由―セックス産業から見える世界経済のカラクリ」

mike-cat2007-05-26



〝下半身は、GDPも左右する。〟
世界最古の職業にして、
開発途上国の重要な〝産業〟であるセックス経済を、
国内外のセックス産業事情の解説と、数字で読み解く。
〝下半身が動くと、なぜ世界は潤うのか?〟
世界経済のカラクリを読み解く、と豪語する不敵なビジネス書だ。



ふだんビジネス書の類にはいっさい興味はないのだが、
題材が題材ということと、表紙に満載されたポップなピクトグラムが目を引いた。
雑誌などで何となく知識はありつつも、そのカラクリとなると、知らないことも多い。
もちろん、オトコなんで、そちらへの興味は津々…
いろいろ言い訳をつけて、スケベごころを満たしてみることにする。


なぜオトコは、セックス産業(もしくは射精産業)にカネを投じるのか―
有名なジョークとしても知られる、クーリッジ効果の逸話から始まるこの本は、
セックス産業が歴史の中で果たしてきた、
もしくは、いまの世界において果たしている役割を軽く解説してスタートする。


日本のセックス産業の項ではまず、ソープランドにまつわる諸々を解説。
いわゆるトルコ風呂改称問題から、売春防止法とからんだ法律上の抜け道、
そのシステムや市場規模(あくまで想像上の概算)などを解説する。
また、SMクラブ、ストリップから援交、ラブホテル、アダルトショップ…
多種多様なセックス産業をおさらいする中では、
いわゆるデリヘルが島根県と同等の経済規模を誇る、なんてトリビアも披露される。
また、児童ポルノ天国という、日本の恥ずべき側面にも触れている。


日本におけるセックス産業のグローバル化については、
フィリピンパブにアジアン・エステ、いわゆる立ちんぼさん、
東南アジア系が大半を占めるちょんの間についての解説に加え、
海外でセックス産業に従事する日本人女性の、意外な境遇についても書かれている。


また、世界に目を移すと、
セックスワーカーが過酷な生活環境におかれた英国、
売春が合法化され、「セックス税」なるものが導入されたドイツや、
昔懐かし(実際には知らないが…)「飾り窓」が合法化されたオランダ、
売春すらもGDPに算入してしまうギリシャや、
外国人の不法就労が問題化するイタリア、フランスの事情、
そして売春宿が株式上場する、という〝事件〟が起こったオーストラリア…
各国ならではの、さまざまなケースについて、紹介している。


というわけで、なかなか興味深い内容が紹介されているが、
いってみれば、それだけ、の本である。
別にこれを読んだから、本当の意味で〝カラクリ〟が見えてくるわけではない。
ビジネス書なんて、たいがいそんなものだが、ザッと表面をなぞっているだけだ。
日本でセックス産業に従事する外国人が利用する地下銀行の送金、
なんてものには軽く触れたりははいるが、
日本のセックス産業とは不可分の、暴力団の存在などにはほとんど触れていない。
ポルノ解放などを訴えた最終章での提言も、
正論といえば正論だが、そこまでの掘り下げの甘さもあってか、説得力に欠ける。
壮大なオビの惹句に値するほどの内容は、正直言ってないような気がする。


ただ、書いた通り、ビジネス書なんてそんなもの、と思えば、さほど腹も立たない。
軽く読み飛ばして、というには値段の面でも、読む時間を浪費する面でも微妙だが、
いわゆるその方面について、まったく知らない人が読む入門編にはいいのかも。
まあ、実際、多種多様な風俗店のそれぞれの違いなんてのも、
「はあ、そうなんですか…」と感心したり、「よくもまあ…」と呆れたり。
とりあえず、単純なスケベごころ的興味は満たされるはずだ。


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bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

なんばパークスシネマで「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」


米国版DVDで鑑賞済の1本だが、
自分の語学力では(英語字幕ありでも)完全に理解したという自信もないので、
再び観に行くことのする。それも公開日、やっぱりきなのか?


前回観たときは、あまりの悪趣味さと際どさに驚くばかりだったが、
もう一度観て、あらためて感じるのは、その確信犯的な手口の数々…
極端なジョークで議論を喚起する、なんて高尚な意図はあるのかないのか不明だが、
やはりサシャ・バロン・コーエンの狙いは、そう単純な図式では割り切れない。
少なくとも、出演させられたわけでもないに勝手に憤慨している、
評論家の肩書きに値しない映画評論家(お×ぎとか…)の指摘が、
どれだけ稚拙で浅はかなものであるか、はよく見えてくる。


特に×すぎは、週刊文春
「これを楽しめる人はどこか人間的な欠陥があると思います。
 それほどクダラない差別満載なのです。見た自分が恥ずかしい」と、
まあ、よほどあんたは完璧な人間なのでしょうね、
という単なる感想(これは、評論じゃない!)を垂れ流している。
だが、次々と繰り出されてくる差別ネタの数々が、差別を意図しているのか、
それとも、差別ネタを通じた風刺や、逆差別をあぶりだそうとしているのか、
というところまで考えれば、単純に差別満載と切り捨てていいのか、一目瞭然だ。
もちろん、この映画はくだらない。
くだらないけど、どこか悪趣味な笑いを誘うのも確かだ。
それをもって欠陥がどうこういうバカには、それこそ欠陥があるとしか思えない。


ま、そんな評論すらできないタレント(むろん、“才能”もないが)はともかく、
シャレにならない部分も含め、一見の価値はある、まさしく問題作。
お下劣バンザイ! が好きな方には、間違いなくお勧めだし、
お上品な方々にも、映画を通して見えてくるさまざまな部分を読みとって欲しい、
そんな、応援もしたくなってしまう、不思議な魅力もある作品であると思う。